この記事のポイント
- 📊 難易度の波形パターンがフロー状態を生み出す
- 🔬 最新研究:スキルがチャレンジをやや上回る時が最適
- 💡 単調な難易度上昇は楽しさを損なう
- 🎯 成長の実感と回復時間の重要性
Roblox限定ではありませんが、ゲームの「楽しさ」とはなにか。人はなぜ何時間もゲームに向かってしまうのか?については、長年さまざまな研究が行われています。この記事では過去の研究をもとに「ゲームの楽しさ」を評価する8項目の第1回として、「難易度プログレッション」を詳しく解説します。
はじめに:なぜ人はゲームに熱中するのか
ゲームの難易度は「徐々に難しくなる」のが良いと思いますか?実は、この単純な質問の答えは、50年にわたる心理学とゲームデザイン研究の成果から導き出された、意外に複雑なものでした。
1. 難易度プログレッション
📊 評価内容
ステージ全体を通じた難易度の上昇パターンが、プレイヤーの成長と適切に同期しているかを評価
🔍 具体的な測定項目
- スキル-チャレンジの波形パターン
- 難易度が単調増加ではなく、「簡単→難しい→少し簡単→より難しい」という波形を描いているか
- 学習曲線との整合性
- プレイヤーが新しいスキル(長距離スイング、タイミングジャンプ等)を習得するタイミングと難易度上昇が合致しているか
💡 なぜ楽しさに繋がるか
常に高難易度だと疲弊し、常に簡単だと退屈する。適度な緩急がフロー状態を維持する。
🎯 フロー理論の基礎研究(1975年〜)
Csikszentmihalyi(1975)のフロー理論
- 最初はロッククライマーやチェスプレイヤーを観察
- 「なぜ報酬なしに熱中するのか?」という疑問から出発
- 発見:スキルと挑戦が「釣り合っている」時に最高の体験が生まれる
ゲーム研究への応用(2009-2010)
Pedersen et al.の画期的な実験(2009-2010)
"Modeling Player Experience in Super Mario Bros"
実験方法:
- 480回のプレイセッション
- Super Mario Brosの自動生成レベルを使用
- プレイヤーに「楽しさ」「フラストレーション」「チャレンジ」を評価してもらう
- ニューラルネットワークで予測モデルを構築
重要な発見:
- チャレンジ予測: 77.77%の精度
- フラストレーション予測: 88.66%の精度
- 楽しさ予測: 69.18%の精度(より複雑なモデルが必要)
なぜ波形パターンか:
- 常に難易度が上がり続けるとフラストレーションが急上昇
- 同じ難易度が続くと退屈(楽しさスコアが低下)
- 緩急をつけた時に楽しさスコアが最も高い
最新の知見(2023-2025)
Cudo(2025)の新発見
"Analyzing Skill-Challenge Interaction and Flow State"
実験方法:
- 528名のボードゲームプレイヤー
- Response Surface Analysis(RSA)という新手法を使用
- スキルとチャレンジの「最適な組み合わせ」を3D的に分析
驚きの発見:
- 従来の「バランス説」は不完全
- スキル = チャレンジが最適ではない
- スキルがチャレンジをやや上回る時が最適
- 絶対値も重要
- 低スキル×低チャレンジ = つまらない
- 高スキル×高チャレンジ = エキサイティング
- 同じ「バランス」でも体験が全く違う
Cutting et al.(2023)の反証研究
"Difficulty-skill balance does not affect engagement and enjoyment"
実験内容:
- 従来の「逆U字カーブ理論」を検証
- ゲームの難易度を精密に制御して実験
意外な結論:
- 単純な「バランス」は楽しさを予測しない
- 成長の実感の方が重要
- つまり、時間的な変化(プログレッション)が鍵
なぜ「波形パターン」なのか
心理学的根拠
- 慣れ(Habituation)
- 同じ刺激が続くと反応が鈍る
- 対比効果
- 難しい後の簡単は「より簡単」に感じる
- 回復時間
- 認知的疲労からの回復が必要
具体的な波形パターン例
難易度
↑
8 | 🏔️ 🏔️🏔️
6 | 📈 📉 📈
4 | 📈 📉 📈
2 |
└─────────────────────→ 時間
課題をやや上回る時にフロー状態が最大化
実践例:成功したゲームの難易度設計
ゲームデザインでの実証
- Dark Souls: ボス戦後の安全地帯
- Super Mario: ボーナスステージの配置
- Celeste: 難関後のストーリーパート
🎮 Robloxゲーム開発への示唆
Obbyゲームなどでは、単調な難易度上昇を避け、意図的な「休憩ポイント」や「達成感を味わえる簡単なセクション」を配置することで、プレイヤーのエンゲージメントを維持できます。
よくある質問(FAQ)
Q: ゲームの難易度は徐々に難しくなるのが良いのですか?
研究によると、単調な難易度上昇よりも「簡単→難しい→少し簡単→より難しい」という波形パターンが最も楽しさを生み出します。Pedersen et al.(2010)の研究では、緩急をつけた難易度設計で楽しさスコアが最も高くなることが実証されています。
Q: フロー状態とは具体的にどのような状態ですか?
フロー状態とは、活動に完全に没頭し、時間の経過を忘れるような最適な体験状態です。2025年の最新研究では、スキルがチャレンジをやや上回る時(完全なバランスではなく)に最もフロー状態に入りやすいことが判明しています。
Q: 実際のゲーム開発でどう活用すれば良いですか?
Dark Soulsのボス戦後の安全地帯、Marioのボーナスステージなど、意図的な「緩急」を設けることが重要です。難しいセクションの後には回復時間を設け、プレイヤーが成長を実感できる瞬間を作ることで、長時間のエンゲージメントを維持できます。
まとめ
「楽しさ」の科学的研究は1975年のフロー理論から始まり、現在も進化を続けています。難易度プログレッションにおいて重要なのは、単純な難易度上昇ではなく、波形パターンによる緩急の設計です。
覚えておくべきポイント:
- 難易度の波形パターンがフロー状態を生み出す
- スキルがチャレンジをやや上回る時が最適(2025年最新研究)
- 成長の実感が楽しさの重要な要素
- 認知的疲労からの回復時間を設計に組み込む
参考文献
- 📚 "Analyzing Skill-Challenge Interaction and Flow State" - Cudo (2025)
- 📚 "Modeling Player Experience for Content Creation" - Pedersen et al. (2010)